新日5・2東京ドーム大会を
振り返って



 新日本プロレスの2002年5月2日東京ドーム大会について書く。
 その大会後に長州力の退団と猪木批判、ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアIXのリーグ戦、永田裕志×佐々木健介のIWGP戦があった6・7武道館大会など、いくつもの動きがあり、もはや5・2は古い話題になっている。
 でも、蝶野体制となって初の大きな大会であり、その意味で新日のプロレス界におけるスタンスと、団体の方向性を考える際のターニングポイントといえるだろう。だからこそおさらいをしておきたい。
 ぼくは会場へは足を運んでいない。テレビの当日生中継とレギュラー枠での放送、あとインターネット、雑誌報道をもとにしていることを断っておく。


 結論からいうと、新日本プロレスは、相当にヤバいんじゃないだろうか。
 その理由に先立って、まず、それぞれの試合について、一言ずつコメントしたい。

第1試合 金村キンタロー×関本大介(大日本提供カード)
 関本はあごの骨折を押して出場したそうだ。その根性も、素材がいいのもわかったが、体が重たい。動きが悪い。第一試合としては辛かった。

第2試合 柴田勝頼×井上亘
 序盤で柴田が放った技により、井上の動きが鈍くなったそうだ(テレビではその場面はカットされていた)。そういう技を出すほうも受けそこなうほうも困ったもんだ。つまらない試合。

第3試合 3代目タイガーマスク&4代目タイガーマスク×エル・サムライ&ブラック・タイガー
 3代目(金本)が試合後に怒っていたが、ブラック・タイガーにやる気がなく、最後までかみ合わなかった。そもそも本隊とT2000をシャッフルしたのに無理があるんじゃないか。3代目&ブラック×4代目&サムライのほうがたぶん、いや絶対に面白かった。

第4試合 豊田真奈美&堀田祐美子×伊東薫&中西百恵(全日本女子プロレス提供カード)
 今の全女が提供する最高のカード。男のプロレスを見ている人にとっては、スピーディに飛んで跳ねて、華やかな技を出せばエグい技も出す、全女流の試合はエキサイティングだったのだろう。会場はかなり沸いていた。(女子プロウォッチャーにとっては、普段着の試合だったが)モモがいつも以上の躍動感で魅せていた。

第5試合 IWGPジュニアタッグ選手権
 外道&邪道×獣神サンダー・ライガー&田中稔

 いつもの見慣れた試合、といったら気の毒か。「どうなるんだろう」というドキドキ感は、ぼくは感じなかった。試合後の新日本隊・T2000・ノア勢入り交じっての乱闘もうっとおしかった。

第6試合 スコット・ノートン&天山広吉×橋本真也&小川直也
 因縁を乗り越えて結成されたOH砲が、これまた因縁の新日に乗り込んできて、新日の明日のエース・天山と絡む。そういうシチュエーションなのに、正直食い足りない感じ。天山、あっさりしすぎ。ノートン、だらしなさすぎ。蝶野新日の前面部隊がZERO-ONEに蹴散らされた、という印象。

第7試合 安田忠夫×ドン・フライ
 入場時にフライに急襲され、安田がのびた。フライがずるいっていえばずるいが、安田も緊張感がなかったんじゃないか。そのダメージがあったにしても、フライに手玉にとられて負けた安田って、どうなんだ。ぼくは安田を買っていない。

第8試合 中西学×バス・ルッテン
 グッドリッジに続き、中西は対総合格闘技で連敗。確かに野人ムーブで見せ場はつくった。ケリや掌底をノーガードで受けてプロレスのすごさをみせる、という考えもわかる。が、その結果負けたんじゃ意味がないんじゃないか?

第9試合 佐々木健介&棚橋弘至×リック・スタイナー&スコット・スタイナー
 新しいファンにスタイナーブラザースを披露しただけ。悪い意味で新日らしいカード。健介はこんなところで消化試合をしてていいのか。特別レフリーのジョニー・ローラー(元チャイナ)もジャマ。

第10試合 IWGPヘビー級選手権
 永田裕志×高山善広

 高山の攻めの厳しさと、永田の受けの凄さが光った一戦。永田の踏ん張りに目を見張った。この試合には文句のつけようがない。

第11試合 蝶野正洋×三沢光晴
 まさに夢のカードだが、全体に三沢ペースの展開。三沢は余裕をもっていた。でなきゃ卍固めなんて技を出すはずがない。蝶野はプロデューサーとしてバックステージで動き回っていたし、当日風邪気味で体調もよくなかったという。そこは考慮しないといけないが、ノアの秋山準の試合後のコメント「三沢は新日本に花を持たせた(から勝ちにいかなかった)」にぼくも同感だ。はじめから30分間、「夢を魅せる」つもりだったのだろう。


 以上振り返ってみて、けっきょくのところ、新日所属の選手によるカードよりも、他団体の提供カードや、新日と外部の選手との絡みのほうが、面白かったし、盛り上がっていた。内部選手どうしでは世間にアピールできる闘いができないのだろうか。選手層の厚さを考えると恥ずかしい話だ。
 外部選手との絡みでいえば、勝利をしたのは永田だけ。あとは天山&ノートン、中西、健介&棚橋は負け。なんなんだ、この結果は。

 もう過去のことだが、全日の川田利明が新日マットに立って健介と対峙したとき、川田のほうが体に厚みがあるので驚いた。川田は小柄なほう、健介はかなり肉厚、と思っていたが、それはあくまでも「四天王の中では」「新日の中では」ということだったのだ。そして、試合も川田が勝った。
 新日という団体は、そのスケールを大きく見せるのが上手いが、内実は伴っていないのでは、と疑念を抱いた一戦だった。
 かつてミスターIWGPこと橋本真也が外敵の小川直也と何度か戦ったときも、最後にはほとんど惨敗といっていい結果だった。
 ノアの秋山と新日の永田のGHC選手権戦も、最後には秋山のほうが役者が上だと感じた。
 そして今回、三沢は蝶野相手に余裕を持って戦っていた。
 新日レスラーは、外部の選手と戦ったときに案外結果を残していない。ストロングスタイルの名が廃る。新日の底力はそんなもんなのか?


 新日の常套手段として、外敵がやってきたとき、しょっぱなの闘いで新日側が負けるか、ノーコンテストみたいな不明朗な結果になって遺恨を残し、「決着をつけてやる、このヤロー!」と以降につないでいくパターンがある。今回のルッテン戦やOH砲との絡みは、そういう含みを残した結果かもしれない。
 が、しかし、そういうことばっかりやってるから、新日はダメになってきた。今後の展開見たさに客が会場に繰り返し足を運ぶと思っているなら見当違いだ。そんなに心優しいファンばかりじゃない。to be continue の連続じゃあ、見る側にフラストレーションが溜まっていくばかりだ。
 次回を見せるために今回があるんじゃない。今回があるから、次回があるのだ。
 いま目の前で、ハートをわしづかみにする試合を見せないと、ファンはすぐに離れていく。そういう基本を忘れてはいないか?

 プロレスの興行としては、悪くなかったと思う。面白い試合は確かにあった。だがその最大の功労者は三沢光晴またはノアだろう。もし三沢が出てこなかったら、あるいは高山の新日進出に難色を示したら、これだけの大会は開催できなかっただろう。
 プロレス界の老舗で最大手の団体の興行として、これでよかったとはとても思えない。


 長州力の退団で、ある意味、新日の悪い部分が白日の下にさらされてきている。それでファンが離れるのもしょうがない。いちど悪いところをすべてはき出して、またやり直すしかない。
 再建するための筋道は、6・5大阪府立体育館で行われたIWGPタッグ選手権試合、蝶野&天山×中西&西村修、60分フルタイムドローに終わったこの一戦に、きっと大事なヒントが隠されている。

(2002年6月・79号)

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