極私的プロレス団体観



 このところ、プロレス界の動きがめまぐるしい。長年のプロレスファンのぼくから見ると、好ましい展開もあれば、疑問を感じる展開もある。
 そういったもろもろについて、現時点(2001年4月)で思っていることを雑記したい。

●新日本プロレス
 4・9大阪ドーム大会をテレビで観た。印象を一言で言えば、混乱のうちに終わったつまらない大会だった。
 獣神サンダーライガー×村上一成の一戦は、開始のゴング直後のコマーシャルが明けたら、もう試合が終わってセコンド入り乱れての乱闘になっていた。直前まで双方殺気立っていた一戦の結末がこれか、と脱力。
 そして、その混乱のうちに、次の試合の長州力が入場し、小川直也とどつきあい、しまいには「今からやるか!」とマイクで叫んでいた。おいおい、アンタは今から全日の川田利明と対戦するんだろう。川田そっちのけで小川を挑発している場合じゃないだろうが。
 ようやく村上・小川が退場し、ざわついた雰囲気のなか川田と渕正信が入場。これといった盛り上がりもなく、川田が痛めている右腕を攻められてヤバくなったら、すぐに渕が入ってきてリキラリアットをくらってピンフォールされた。ベテラン渕が、川田にこれ以上負担をかけさせないようにと試合を止めたのだろう。試合前の混乱ぶりを考えれば、全日の2人が「もうこのへんでおしまい」と思うのも無理はない。ケガと強行日程をおしてまで敵陣に乗り込んできた川田と渕が気の毒だった。
 スコット・ノートンと藤田和之のIWGP戦も、佐々木健介と橋本真也の新日・ZERO−ONEトップ対決も、なんというか、K−1の試合でも見ているような感じで、息の詰まるようなプロレス的な絡みはなかった。中西学×永田裕志は、ハイキックで結末したのは意外だったが、そのほかは目新しいものも目を引く展開にも乏しい、見なれた試合という印象だ。正直いって、これらの試合よりも、T2000とBATTのタッグ戦のほうが、よっぽどプロレス的で面白かった。
 この大会は、あちことで不評をかっている。客の入りもあまりよくなかったようだ。ごくまれにしか新日中継を見ないうえに、新日の内部事情に疎いぼくでも、新日本が危機を迎えていると言われるのもうなずけるよなぁ、と思ってしまう。
 新日の台所事情はよっぽどひどいんだろうな。それとも、強権発動でカード変更をしたアントニオ猪木のほうがガンなのかなぁ。

●全日本プロレス
 川田を休ませてあげたい。この一言に尽きる。天龍源一郎の一枚看板では厳しいのもわかるが、このままじゃ川田は壊れてしまう。
 もういい加減に駒不足を認めて、ジョニー・スミスやマイク・バートン、スティーブ・ウィリアムスらをトップ戦線に押し上げてやったらどうか。フロントは相変わらず「エースは日本人でなければ」と考えているのか。本命=天龍源一郎、対抗=太陽ケアの図式が続くと、見る者も飽きてしまうぞ。
 馳浩、武藤敬司、太陽ケアらがBATTを結成してかき回しているのが救いと言えば救いだが、それにしても、BATTに対抗する本隊の陣容不足は否めない。
 いっそ天龍もBATT入りして、BATT=全日本隊というのはどうだろろう? やっぱダメかな。

●NOAH
 三沢光晴が初代GHCチャンピオンとなった。三沢というレスラーの底力というか、奥の深さはとてつもないと思い知らされた。膝十字や肩固めみたいなU系の技であの高山善廣を追い込むのだから恐ろしい。また、そんな三沢にあと一歩まで迫った高山もたいしたものだ。
 高山といい、秋山準、大森隆男といい、NOAHの選手は確実に実力を伸ばしている。この団体は、カラーが異なるZERO−ONEと絡まなくても、充分に魅力的に思う。評価しすぎかな。

●ZERO−ONE
 何をしたいのか、いまひとつわからない。橋本は「破壊と創造」を標榜するようだけど、当面のターゲットであるNOAHは「破壊なき創造」つまり「進化」の道を歩んでいるように思う。
 この両者が絡むのは、方法論としてあまり得策でないように感じるのはぼくだけだろうか。
 既存秩序の破壊ということなら、小川直也と橋本が手を組んで暴れ回るのがわかりやすい展開だけど、はたして感情を乗り越えてまでそこへもっていけるのかどうか。

●全日本女子プロレス
 現WWWAシングル王者の伊藤薫とオール・パシフィック王者の渡辺智子、ナナモモこと中西百重・高橋奈苗ら若手たちによる全女世紀軍と、ヒールユニットのラス・カチョーラス・オリエンタレス(ラスカチョ)の下田美馬、三田英津子、そしてラスカチョと手を組んだ前川久美子、掘田祐美子、豊田真奈美による反全女軍との対立が激しくなっている。
 ことの発端は昨年秋、タッグリーグの緒戦で前川がパートナーの渡辺を裏切り、反対コーナーのラスカチョとともに渡辺を攻撃したことだった。
 前川はキャリア10年。もはやベテランなのに、堀田、豊田、伊藤という図抜けたトップ選手たちと、ナナモモら成長著しい若手選手との間にいる中堅選手として見られていた。ベビーフェースとしては殻を破ることができなかった、といってもいい。
 そんな前川が、自分の殻を破ろうとしてヒール転向を図ったのは納得できる。
 が、今年のはじめ、そのユニットにまず堀田が参加し、追って“究極のベビーフェース”豊田までが参加したのは「???」だ。
 堀田と豊田は、どちらも元WWWAシングル王者。全女内のみならず女子プロレス界全体にも及ぶ地位を築いている。そうしたトップレスラーが、あろうことかフリー選手のラスカチョ側に寝返った。どう解釈しても、自分の地位を下げる選択としか思えない。
 堀田・豊田の選択については、「ベテランといえども、うかうかしていたら自分の地位を追われるという危機感をもっている。それが今回の行動となった」という見方もある。たしかに2人は、伊藤が豊田を破ってWWWAシングル王者となった昨年夏以降は、ご隠居さん的な雰囲気もあった。実力はあるが出番なし、という感じだ。
 それが「まだ自分は終わっていない」という危機意識につながったのは確かだろうが、でも、だからといって、巻き返しの一手がラスカチョ&前川と手を組むことというのは、あまりにも芸がない。ことに、神取忍とバーリトゥードルールで闘い勝利するほどの実力のある堀田ならば、バーリトゥーダーとして腕を磨くとか(もともとプロレスはヘタ、格闘技向き)、第3のユニットを結成してトライアングル抗争を展開するとか、やり方はほかにもあるだろう。そういう発想がないのだから、相も変わらず堀田ってやつは……というところだ。
 うがった見方をすれば、堀田・豊田ともここでヒール転向をして、まもなく伊藤らに踏みつぶされて、「やることはやった」といいつつ引退への花道を歩む、という展開もあるだろう。そうでなければ、両エースの選択には疑問が残るのだった。

●GAEA
 女子プロレスの大河ドラマを見たければ、GAEAに注目することだ。
 何と言っても、デビル雅美とクラッシュギャルズ(現クラッシュ2000)という、オールドファンには涙ものの選手が現役バリバリで若手と対戦し、しかもアジャ・コングに北斗晶、尾崎魔弓にダイナマイト関西、ついには井上京子まで、各団体のトップに立ったそうそうたる顔ぶれが勢揃いしているのだ。そして、これら昭和の大物を相手に、平成デビューの若手たちが堂々と渡り合う。若手が大物を食うような、予想外の結果も珍しくない。
 この団体はいつも、「次週も見たくなる」ような壮大なドラマが進行中だ。

(2001年4月・73号)

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